皮質延髄網様体脊髄路とは?
- 2020.05.31
- リハビリ

姿勢制御、予測的姿勢制御について勉強していくと必ず目にする用語です。
腹内側系の中の一つである皮質延髄網様体脊髄路は、私たちが運動する時に滑らかに動くためには、とても重要な働きをしています。
皮質橋網様体脊髄路と共に姿勢制御に関与し、歩行やリーチ動作などの随意運動を行なっていく時に、刻々と変化する姿勢、四肢近位部の筋緊張のコントロールを担っています。
この働きを知っていると、どのように評価すれば良いか、活性化していくためにはどのように介入すれば良いか、など少し頭の中が整理できると思います。
そこで今回のテーマは、皮質延髄網様体脊髄路についてです。
経路と3つの特徴
皮質延髄網様体脊髄路は、大脳皮質(4野)➡︎大脳基底核➡︎延髄網様体➡︎脊髄の側索を下降していきます。
主に反対側の四肢近位部(~遠位部)の姿勢筋緊張のコントロールを行い、運動に随伴して起こる姿勢制御に関与しているとされています。
皮質橋網様体脊髄路は、伸筋群の筋緊張を調整(先行的な姿勢コントロール)
皮質延髄網様体脊髄路は、屈筋群の筋緊張を調整(随伴的な姿勢コントロール)
→お互いが協調的に作用し、体幹、下肢、上肢を抗重力下でも崩れないように保っていると考えられます。
皮質橋網様体について、詳しくはこちらをご覧ください。
特徴① 「両側性」
皮質延髄網様体脊髄路は一部交差をするため、皮質橋網様体脊髄路の「同側性」と異なり、「両側性」の特徴を持ちます。
その中でも主に対側の股関節、肩関節の筋緊張の調整に関与していると考えられています。
皮質橋網様体脊髄路は、主に姿勢筋緊張の促通を、皮質延髄網様体脊髄路は、主に姿勢筋緊張の抑制を行っていると言われています。
特徴② 「無意識?」
皮質延髄網様体脊髄路は、随伴的な姿勢制御(accompanying Anticipatory Postural Adjustment:aAPA)に関与しています。
皮質橋網様体脊髄路と同様、随意運動の開始前に生じる予測的なものです。
皮質橋網様体脊髄路による伸展活動があって初めて、運動を行なっている最中の身体や身体アライメントを安定させるように働きます。
何か目の前のものを取ろうとした際、対象物に対して手を伸ばしていきますが、この時の肩関節には意識は向いていないのではないでしょうか?
リーチ 動作開始時から対象物を手に取る過程の中で、身体や肩周囲に生じる変化、外乱による動揺は刻々と変化していきます。
生じるであろうその変化を予測して漸増、漸減していく働きを担っています。
特徴③ 「選択的」
姿勢制御に関する3つの経路を端的に表現すると、以下のようになります。
・橋網様体脊髄路:姿勢オリエンテーション
・延髄網様体脊髄路:選択的な運動のコントロール
・前庭脊髄路:強い抗重力伸展活動
姿勢制御については、こちらをご覧ください。
皮質橋網様体脊髄路と協力しあって体幹の伸展を保つ働きをします。
ただ同じ働きをしているのではなくて、皮質延髄網様体脊髄路は屈曲の要素を制御しています。(支持側の安定が図れていることが条件です)
左脚を一歩前に出す時を例に話をしてみます。
①右の皮質橋網様体脊髄路による体幹や右下肢の伸展
②右の前庭脊髄路により体幹、右下肢の伸展が強化
③右の皮質延髄網様体脊髄路により左股関節の屈曲が制御されて、左脚を挙上して一歩前に出す
④挙げ始めても体幹が伸展を保持できるように、橋網様体脊髄路にさらなる伸展を要求して姿勢を安定させる
このように、延髄網様体脊髄路は何か運動しようとした際の屈曲の要素を徐々に強めていくだけでなく、その際の体幹や対側の伸展の活動もより強くしていく働きがあります。

歩行パターンに関与
皮質延髄網様体脊髄路は脊髄の歩行パターン生成器(Central pattern generator; CPG)に関与していると考えられています。
脳神経系には、歩行運動を誘発する機能的領域が存在します。
これを歩行誘発野と呼び、以下の3 領域が同定されています。
1. 視床下部歩行誘発野(Subthalamic locomotor region; SLR)
2. 中脳歩行誘発野(Midbrain locomotor region あるいは Mesencephalic locomotor region; MLR)
3. 小脳歩行誘発野(Cerebellar locomotor region; CLR)
このうち、CLR からの信号は延髄網様体脊髄路に作用すると考えられています。
各歩行誘発野からの入力を中継する延髄網様体脊髄路のニューロンは、脊髄の歩行パターン生成器(Central pattern generator; CPG)を駆動し、歩行運動を誘発するとされています。
従って、網様体脊髄路は、姿勢や筋緊張の制御だけでなく、歩行運動を発現させる上においても重要な役割を担っています。
まとめ
・腹内側系の中の一つである皮質延髄網様体脊髄路の働きを知っている、知らないでは評価、治療の考え方が大きく違ってきます。
・皮質延髄網様体脊髄路は、随伴的な姿勢制御である。主に対側の股関節、肩関節の筋緊張の調整をしている。
・屈曲の要素をコントロールし、選択的な運動を可能にしている。
・歩行のCPGにも関与しているため、知識として知っておく必要がある。
課題や随意運動を行なっていく中で、皮質橋網様体脊髄路との関係性を把握することが重要。
まずはオリエンテーションが保証された中で、段階付けを行い、選択的な制御の練習、バリエーションを増やしていくなど工夫が必要である。
最後までありがとうございました。
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