運動学習
- 2020.06.28
- リハビリ

運動学習のメカニズムの理解は、我々セラピストにとって必須です。
日々、臨床場面で患者さんと向き合う際、昨日のリハビリの効果が出ていたり、出なかったり、リハビリ室では出来ていても、病棟に戻ると全然出来ていなかったり。
運動学習について勉強するまでは、どうすれば良いのか、全く分かりませんでした。
少しずつ姿勢制御や感覚システム、運動学習について学ぶようになり、僕自身の臨床場面は変化していきました。
ただ動作を繰り返すだけでなく、環境や課題の段階付け、満足度などを考慮する必要があること、目標設定を適切に行うことの重要性を知りました。
そこで今回は、運動学習について簡単にまとめてみました。
運動学習とは?
巧みな課題遂行の能力を比較的永続する変化に導くような実践あるいは経験に関係する一連の過程である。
中村隆一・他:基礎運動学第 6 版.pp447-478,医歯薬出版,
体によるすべての学習は、運動感覚学習によるものです。
それは、感覚と筋肉と脳との間の情報交換のプロセスで発生するものです。
体が動くと、触覚やバランス、視覚などの感覚は脳に体の姿勢や筋肉の活動に関する情報を送ります。
脳は筋肉へ向けてのメッセージを修正することによってそれに対応します。
情報がやりとりされるにつれて、不必要な筋肉の働きが、発見され取りのぞかれていくのです。
こうして少しずつ、動きはより洗練された無駄のないものになっていくのです。
それは健康な体でも、脳にダメージを受けたとしても、良くも悪くも起こる変化です。
リハビリの専門職として、運動学習のメカニズムを理解し、臨床に応用していくこと、マネージメントしていくことが求められます。
上記の流れをもう少し細かく説明していきます。
運動学習のメカニズム
運動学習には、 強化学習と教師あり学習の2つに別れます。

強化学習には大脳基底核が主に関わります。
大脳基底核は脳の深部に存在する複数の神経核からなり、運動の制御、認知機能、動機づけ、報酬などさまざまな機能を担います。
教師あり学習には小脳が主に関わります。
小脳は知覚と運動機能を統合し細かい運動の制御に関わります。
運動を正確に遂行するためには、フィードバックによる誤差修正が必須です。
正確な運動のためには、正確な内部モデルが重要になってきます。
「大脳皮質と大脳基底核」、「大脳皮質と小脳」は、それぞれ視床を介したループ回路を形成しています。

大脳基底核(強化学習)
大脳皮質と大脳基底核ループ回路は、運動を遂行するうえでの順序や組み合わせを制御します。
また、運動を“やる”、“やらない”を決めるのもこの回路です。
基底核は運動感覚フィードバックを受けないので、強化学習では、最終的に行った動作の結果が良かったかどうか、黒質線条体ドーパミン系からの行動の評価信号(強化信号)の影響、報酬の量が重要になります。
「行動することで期待される報酬の量」と「行動して実際に得られた報酬の量」の誤差が重要です。
辺縁系における「快・不快」の情動的評価を受けるため、基底核による強化学習の本質は、自らが成功と失敗を経験することにより、運動や行動の適切さを学ぶことであると考えます。
褒めることが歩行能力の改善に寄与するかどうかを調査した研究があります。(Dobkinら,2010)
結果、褒めた群は褒めなかった群に比べ歩行速度が有意に改善したとされており、褒めることが報酬として働き、運動学習を促したことを示唆しています。
そのため、リハビリの中で運動学習を促進するためには良い結果が出たタイミングで褒めることが重要です。
選択する運動の課題や環境を、対象者自身ができなくはないけれど、簡単にはできないレベルに調節して、繰り返し練習を行うことが重要になります。
そのできそうでできない課題を達成できたときに、「報酬」(成功体験)が最大に得られ、運動学習効果が高まります。
小脳(教師あり学習)
小脳の運動調節において、運動感覚のフィードバックが重要であり、これに基づいて運動や運動のプログラムが補正・調節されて、「正確な運動」が実現されます。
正確な運動のためには、正確なフィードフォワード制御が必要です。
そのために、小脳が「教師」として働き、「運動した情報」と「帰ってきた感覚情報」を照らし合わせて、その誤差を補正し、適切なフィードフォワードのモデル(内部モデル)を作っておきます。
フィードバック誤差学習が繰り返されると、その運動について、正確な内部モデルが構成され、正確な運動、滑らかな運動ができるようになります。
どのように動いたら正確に動けるかが頭の中に入っている状態です。

・逆モデル:目的にかなう運動をするのに筋肉や関節をどのように伸縮させるかという運動指令を作成する。
・順モデル:運動指令が実行される時に得られる筋肉や関節の位置を予測する。
流れとしては、
①連合野で作られた目標軌道が運動野に送られ、目標軌道を運動指令に変換し、運動指令が筋骨格系に伝わり、実際の運動が起こります。
②連合野で作られた目標軌道が運動野に伝わる際に、同時に目標軌道のコピー(遠心性コピー)が小脳にも送られます。
③目標軌道と運動によって生じた感覚情報フィードバック間の誤差は、運動指令の誤差信号(教師信号)として下オリーブ核から小脳に伝達されます。
④そして新たなフィードフォワード情報(内部モデル)が構成されます。
小脳による運動学習には、トライ&エラーが重要ということです。
脳卒中患者さんの場合
発症前までに構築されていた内部モデルがうまく使えません。そのため、意図した運動が行えなくなっています。
意図した運動を実現、運動学習していくためには、新たな内部モデルを構築していく必要があります。
そのためには、能動的に動き(フィードフォワード制御)、多様な運動課題を繰り返し行い、多くの感覚フィードバック情報を取り入れることで、フィードバック誤差学習を行なっていくこと、内部モデルを再構築していくことが重要です。
順序学習
私たちの日常生活は、複数の動作をさまざまな組み合わせとタイミングで行うことによってはじめて目的が達成される順序運動がほとんどです。
順序運動の学習初期には、試行錯誤によって運動の種類と順序が視空間的な情報の一時的な記憶がなされることによって進みます。
学習が進むと、運動のための関節の曲げ方,力の加え方,運動の切り替えのための体のバランスの取り方などの学習がなされ、複数の運動が一連の連続動作として円滑に行われるようになります。
この学習に、上記の大脳基底核と小脳が大きく関与しているのです。

マネジメント
リハビリテーション場面だけでなく、病棟での時間、自宅での時間、もっと細かく言えば、午前、午後、座っている時の姿勢、昼食後の開いた少しの時間、何か作業をする時、寝ている時の姿勢などなど。
運動学習のためには、何度も繰り返すことが必要です。
しかし、単純な繰り返し運動では、可塑的変化は少なく、学習の内容(環境、課題の段階付け、複雑化、満足度など)によって脳のどの領域にどのような変化を与えるかが変わってきます。
健常者は同じ動きでも環境などによって、バリエーションを持って対応できます。
患者さんはどうでしょう?同じような動き方で、同じような失敗を繰り返しませんか?
姿勢制御のところでも少し話をしましたが、健常者は自ら自由度を制約することができますが、患者さんは難しいです。
セラピストが動くための感覚情報を提供(感覚システムを準備)していき、能動的に動いてもらう必要があります。
または、本人が自分で行えるトレーニング方法を提示していくことも必要となってきます。
運動学習の知識と合わせて、姿勢制御や感覚システムについて学んでおく必要があります。
具体的にどの筋肉が、どの姿勢や課題で、どのタイミングで、どれくらいの強さで働くのか(姿勢制御)。
その筋肉はどんな刺激を、どんなタイミングで与えれば良いか(感覚入力)、を明確にしていくことが重要となります。
>>姿勢制御ついて、詳しくは、こちらをご覧ください。
【 姿勢制御とは? 】
>>感覚入力について、詳しくは、こちらをご覧ください。
【 感覚入力について 】
また、行おうとしている課題の構成要素や特性、環境の影響なども考慮する必要があります。
課題などが明確になると、病棟や自宅でのセルフトレーニングプログラムを考える際にも役立ちます。


SMARTなゴール
適切な目標を設定することも重要です。
「SMART」なゴール設定が必要です。
具体的にはその患者さんにとって、
Specific : 具体的に
Measurable : 測定可能な
Attainable : 実際に達成可能な
Realistic : 患者の生活を反映しており
Time-bound : 時間制約がある
従って、抽象的な目標ではなく、患者さん自身がその決定に関与した、明確な目標設定の方が、学習効果および効果が高まるとされています。
例えば、「歩容の改善」や「歩行の安定」などは抽象的な目標であり、歩行のどの相?歩行補助具は?いつまでに?などがわかりません。
そもそも、達成したかどうかの判断ができません。
・○月○日までに、一人で、一本杖を使って屋外〇〇m歩くことができる。(例えばスーパーまで買い物に行くため)
・上記の目標を達成するための目標として、1週間後に、病棟内で一人で一本杖を使用し〇〇m歩行できるなど
しかし、すぐに明確な目標は立てられないでしょう。
仮説→検証→目標設定→仮説→検証→目標修正を繰り返していき、より適正な目標になるように修正を加えていくと良いでしょう。
そしてスマートに!!
このSMARTを意識することで、具体的な目標を立てることができます。
まとめ
いかがでしたか?
・運動学習には、 強化学習と適応学習(教師あり学習)があり、それぞれ大脳基底核と小脳が関わっている。
・強化学習は、自らが成功と失敗を経験することと報酬の量が重要で、運動や行動の適切さを学ぶ。
・教師あり学習は、フィードバックによる誤差修正が必須で、内部モデルの構築により、正確な運動を学ぶ。
・運動学習を促し、患者さん自身がいろんなことに挑戦し、創造し、自らの可能性、選択肢を増やしていくことを支援することが求められる。
最後までありがとうございました。
少しでも皆さんの臨床のヒントになれば幸いです。
参考図書・文献
・ 中村隆一・他:基礎運動学第 6版.pp447-478,医歯薬出版
・Dobkin, B. H et al, Neurorehabilitation and Neural Repair, 24(3), 235–242.2010.
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