前庭と姿勢制御について

前庭と姿勢制御について

こんにちは。理学療法士のあつ森。です。

現在、私は回復期〜慢性期のリハビリテーションに関わっています。

皆さんは臨床の中で、脳卒中の患者さんが立位で手や脚を突っ張ってしまい、スムーズに座れなかったり、歩行時の膝のリリースが難しく、歩行の改善に難渋したことはありませんか?

このような患者さんに対して、セラピストが徒手的に誘導しようとすればするほど、足で突っ張ってしまい、さらに恐怖心も強くなってしまう。

そんな時に、
「皮質橋網様体システムと前庭システムが協調して、同側の抗重力システムを統合して支持側下肢の伸展をつくる。」

この知識があると、少し臨床の手助けになると考えます。

姿勢制御を考えていく上で、腹内側系の一つである前庭脊髄路についての知識は必須となります。

そこで、今回のテーマは前庭脊髄路と姿勢制御についてです。

>>姿勢制御について、詳しくはこちらをご覧ください。
  姿勢制御とは?

前庭器官の機能

前庭系に関わる末梢器官には2種の受容器、中枢には4つの神経核があります。

【受容器】
三半規管:角加速度を感知する。
耳石器:耳石器には卵形嚢と球形嚢があり、線形加速度を感知する。
    ・球形嚢:上下方向の直線加速度
    ・卵形嚢:水平方向の直線加速度を感知


【延髄にある4つ前庭神経核】
外側前庭核内側前庭核上前庭核下前庭核

前庭系の4つの姿勢反射

  1. 前庭脊髄反射
    前庭の刺激情報が脊髄を通って、下位頚髄、胸髄、腰髄を介して頚部・四肢の伸展筋を支配する。姿勢の崩れを未然に防ぎ、体平衡を保とうとする基本的な反応。
  2. 前庭頚反射
    前庭の刺激情報が、頚部筋を支配して頭部の固定に働く。
  3. 前庭動眼反射
    ある対象物を見たまま,頭部を回転させると頭の動きとは逆向きに眼球を動かす反射運動。対象物を目で追ったり,視線を能動的に変えると抑制される
  4. 頚眼反射
    上位頚椎の固有感覚と外眼筋が連動し眼球運動を行う。

前庭系には動的機能と静的機能があります。

前庭系は、主に4つの部位から情報を受け取り、身体のバランスを保つことに関わっています。

  1. 前庭(耳石)器官:空間で頭部を正中に保つ
  2. 視覚情報:頭部の変位に対する眼球のコントロール
  3. 固有受容器:姿勢保持や重心移動に応じるアライメントを作る
  4. 足部:立位や歩行に必要であり、空間における身体の認知を促す

前庭脊髄路

前庭脊髄路は、内側前庭脊髄路外側前庭脊髄路に分けられます。

内側前庭脊髄路

腹内側を下行し、両側性に、上部頚髄にあるα運動ニューロンに投射し、主に頸部筋を調整しています。
頚部の運動に重要な役割を果たし、頭部の位置の調整(定位)を行っています。

外側前庭脊髄路

脊髄前索の腹外側を下行し、主に同側性で、(頚髄、胸髄も含む)主に腰髄にあるα運動ニューロンに投射し、主に下肢伸筋(膝関節・足関節)を調整しています。(例えば右の前庭神経核であれば右側)

特徴として、皮質からの入力は受けないことが挙げられます。
つまり、どんな状況でも意図とは関係なしに、姿勢の崩れを未然に防ぎ、身体の平衡を保とうとします。

姿勢との関係

前庭系は、小脳網様体脊髄路と密接関係し、姿勢制御に大きく貢献しています。

小脳との関係

前庭系システムは小脳と密接な関係にあります。

小脳の片葉小節葉は、前庭小脳と呼ばれます。

前庭小脳には、頭の動きや重力に対する頭の相対的な位置の情報が前庭三半規管や耳石器から苔状線維を介して入ります。

この部位の細胞は前庭神経核に直接投射してニューロンを抑制します。

外側前庭神経核からは内側および外側前庭脊髄路が発して、体幹の筋や四肢の伸筋の働きを調節します。

また、前庭神経核の一部は外眼筋核に作用して前庭動眼反射や視運動性反応を惹起します。

小脳の働きに関して、詳細は後日まとめます。

網様体脊髄路との関係

外側前庭脊髄路の特徴として、皮質からの入力は受けないことを挙げました。

体性感覚系および視覚系と異なり、前庭系は慣性と重力が感覚の源であるため、感覚器外の事象にとらわれず空間内での身体の挙動を的確に捉えることができます。

三半規管→前庭神経核→下小脳脚→前庭小脳→室頂核網様体脊髄路、外側前庭脊髄路とつながっていきます。

網様体脊髄路の一部には前庭入力を受けるものがあり、姿勢制御に関与・修飾する作用があります。

歩行開始のために

・1歩足を前に出す動作に先行して、皮質橋網様体脊髄システムが働き、抗重力伸展位を保ちながら重心を支持脚へ移し、動作の正しい方向付けを行う。(Proactive)

・重心が支持側へ移ったことにより支持側の床反力は大きくなる。その床反力情報は背側脊髄小脳路を介して前庭核へ伝えられ、前庭脊髄システムを働かせ支持脚の抗重力伸展活動を強める。(Reactive)

・支持側下肢の伸展を維持させつつ、左下肢振り出しのために、レンショウ細胞を介しつつ対側下肢伸筋群を抑制し、皮質延髄網様体路を介して屈筋を優位に興奮させていく。遊脚肢は支持をすることをやめ、空間で円滑に姿勢筋緊張をコントロールできるよう調整していく。(Proactive)

歩行の踵接地に重要

前庭脊髄路は、姿勢や歩行時に必要な抗重力的な活動や、主に下肢伸筋群の活動を調整してくれています。

そのため、イニシャルコンタクトでは網様体脊髄システムを背景に、前庭脊髄路の働きにより、中殿筋、大殿筋、大腿筋膜張筋に強い収縮が起きます。

その他

筋紡錘の中には錘内線維という小さな筋線維があり、γ-運動ニューロンにより支配されています。

外側前庭脊髄路は、伸筋のα-運動ニューロンのみでなく、このγ-運動ニューロンを直接興奮させ、筋紡錘の感度を最適な状態にしています。

そうすることで、姿勢制御に重要な「抗重力伸展活動」を強化しています。

ここが障害されると、下肢・体幹の抗重力筋の働きが障害され、重力に適応して立位を保持することが難しくなります。

リハビリテーションのヒント

臨床場面で、立位での重心移動を練習することはありませんか?
セラピストが徒手的に患者さんの身体を前後左右に動かしたりしていませんか?

患者さんでは、いわゆる足関節戦略が難しく、股関節戦略が優位になり、頭部が過剰に動いてしまいます。

このため前庭系が過剰に刺激され、防御のために体幹、四肢が突っ張ってしまいます。

この状態から送られる感覚情報に応じて、さらに姿勢コントロールは調整されていきます。

治療でのポイントは、重心移動を要求する前にオリエンテーションが得られた状態で、コアの活動により頭頸部がコントロールされ、重心が高い位置で姿勢や運動が遂行されることが重要です。

γ-運動ニューロンへの関与を考慮し、働くべき筋肉、特に下腿三頭筋への介入は重要と考えます。

>>皮質橋網様体脊髄路について、詳しくは、こちらをご覧ください。
  【皮質橋網様体脊髄路とは?

>>皮質延髄網様体脊髄路について、詳しくは、こちらをご覧ください。
  【皮質延髄網様体脊髄路とは?

まとめ

いかがでしたか?

・前庭脊髄路は、皮質から直接コントロールを受けず、小脳と協調して姿勢のコントロールを準備しています。 

・小脳の働きや網様体脊髄路との関係を意識する事で、過剰な下肢の突っ張りや膝が伸びたまますぐに座れない等の反応に対応できる可能性があります。

・歩行に問題がある場合、ただ闇雲に歩行練習を繰り返すのではなく、姿勢制御について考えて、Proactiveの要素に対して介入していくことを推奨します。

最後までありがとうございました。
少しでも皆さんの臨床のヒントになれば幸いです。