姿勢制御とは?

姿勢制御とは?

はじめに

臨床上、重要な3本柱として、姿勢制御感覚入力運動学習があります。


これらの経路や脳の各部位の関係性を知ることはとても重要です。
しかし、それだけでは臨床場面でなかなか上手くいきません。

とりあえず、姿勢を良くすれば良いと言うわけではありません。

姿勢制御:どの筋肉が、どの姿勢や課題で、どのタイミングで、どれくらいの
     強さで働くのか。

感覚入力:その筋肉はどんな刺激を、どんなタイミングで与えれば良いか。

運動学習:それをどう持続させていくか、積み上げていくか。

この3本柱について具体的に理解し、実際に目の前の患者さん、利用者さんと
向き合うことが重要だと考えます。


そこで、今回は姿勢制御について少しまとめてみます。

>>感覚入力について、詳しくは、
【 感覚入力について 】をご覧ください。

>>運動学習について、詳しくは、
【 運動学習 】をご覧ください。

姿勢制御とは?

様々な研究がなされていますが、明確な定義はありません。

私は、様々な姿勢や運動時に「定位」と「安定性」および「運動性」を
組織化することと捉えています。

少し言い換えると、目的とする姿勢や随意運動を達成するために事前に働き
(随意運動中も含め)、無意識に制御されるもの。


簡単に言うと、運動の前に姿勢を整え、バランスが崩れたら修正するものです。

例えば、目の前のテーブルにあるコップに右手を伸ばそうする際、
手を伸ばすことによって生じる姿勢の変化(右前に倒れる)に対して、
あらかじめ運動とは逆方向(左後方)に姿勢を調整しておく。

その結果、前に倒れることなく、最短距離で手を伸ばしてコップを取ることができます。

私たちのすべての運動において、姿勢制御が随伴しており、この先行する姿勢制御があることで、意図した運動、効率的な運動が遂行できます。

効率的な運動と自由度問題

では、効率的な運動とはなんでしょうか?


・どの運動においても全ての身体部位が参加している
・全身を通して、姿勢緊張のバランスが保たれている
・最小限のエネルギーで動くことができる

などが挙げられます。しかし、

成人には約206本もの骨があり、さらに600もの筋肉があります。
その一つ一つを別々に制御すると、組み合わせは無数にあり、脳はコントロールしきれません。

これは、Bernstein(1967)らが提言した運動の自由度問題というものです。

シナジー(synergy)とは、ある運動課題を達成する際に、身体各部位(要素)が連携し、協調することによって、運動の自由度を減らすような機能的な構造・単位の事である。

「身体運動研究における”synergy”概念とその射程」 より引用

ヒトは発達過程の中で、自由度を広げたり、狭めたりしながら目的動作を遂行していきます。

その経験や学習により、無意識に自ら運動方向を制約する事ができるので、
私たちは効率よく動くことができています。
しかも、課題や環境によって、変化させることも可能です。
(この自由度問題は別のところで説明していきます。)


患者さんはどうでしょう?


いつも同じような動き方で、課題や環境の変化に対応できないことが多いのではないでしょうか?
患者さんの失敗の多くは、定型的な失敗、バリエーションの少ない失敗を繰り返しています。

セラピストとして、対象者に動くための感覚情報を提供し、能動的に動いてもらう。

そして、
新しい動き、バリエーションのある動きを一緒に発見・創造する手助けをしていくことが必要です。

定位と安定性について

姿勢制御を学んでいく時によく聞く用語です。

定位は体性感覚、重力受容体、前庭受容体と視覚からの情報を利用した求心性システム(皮質のシステム)で、主に方向性を、

安定性は遠心性のシステムで
主に強さ速さをコントロール
しています。



定位 :質や方向性 = Proactive 予測的に行われる姿勢制御
安定性強さや速さ = Reactive 与えられた刺激に対して起こる姿勢制御


どちらも重要ですが、
臨床上、ReactiveよりもProactiveの姿勢制御が特に重要です。
選択的な動きや強さを要求する前に、正しい方向づけが必要だということです。


この定位・安定性をコントロールする姿勢制御には、もちろん神経系の関与が必要不可欠になってきます。

>>定位(オリエンテーション)について、詳しくは、
定位(オリエンテーション)について】をご覧ください。

姿勢制御に関わる神経機構

姿勢制御は、筋出力・感覚情報フィードバック・外乱予測など、様々な要素が組み合わさって実行されます。

この姿勢制御に関わる下行性システムを列挙してみました。

姿勢制御は腹内側系(内側運動制御系)、運動制御は背外側系(外側運動制御系)とも呼ばれます。


☆腹内側系
主に脳幹から脊髄への下降路で姿勢維持や歩行を制御します。
両側性支配で、体幹筋・近位伸筋を制御します。

背外側系
外側皮質脊髄路と赤核脊髄路にて主に構成されています。
反対側の手や指の巧緻運動を主に制御します。

>>皮質橋網様体脊髄路について、詳しくは、
皮質橋網様体脊髄路とは?】をご覧ください。

>>皮質延髄網様体脊髄路について、詳しくは、
皮質延髄網様体脊髄路とは?】をご覧ください。

>>前庭脊髄路について、詳しくは、
前庭と姿勢制御について】をご覧ください。

「予測的姿勢制御」と「反応的姿勢制御」

バランスが崩された際、
中枢神経系は主に2つの戦略でバランスを回復させます。

予測的姿勢制御 と 反応的姿勢制御 です。

予測的姿勢制御(Anticipatory postural adjustments ; APA)

目的とする運動・動作、予想される身体の外乱に先行して働きます。
フィードフォワードのコントロールと呼ばれます。

主に皮質橋網様体路皮質延髄網様体路が関与します。


APAは無意識下でのコントロールと考えている方も多いようですが、
APAも皮質と連携しています。


随意運動を伴うAPAのためには補足運動野である6野からの信号が必要です。
要は、運動の企図、運動プログラムが必須です。


そのため、患者さんにベッド上に寝てもらい、モビライゼーションや
関節可動域訓練をしているだけでは姿勢制御への介入は十分にできません。


目的とする姿勢や各動作、またはそれに必要な要素を含んだ場面で、
患者さん自らが動こうとする、動きたいと思うシュチュエーションを
提供していくことを推奨します。

反応的姿勢制御(compensatory postural adjustments ; CPA)

バランスの変化に対して反応的に姿勢を修正する役割があります。
視覚、前庭、体性感覚情報に変化が起こり、個別性、課題、環境によって
反応も変化します。
フィードバックのコントロールと呼ばれています。

主に前庭脊髄路が関与します。


具体的な戦略として、
・足関節戦略(Ankle Strategy)
・股関節戦略(Hip Strategy)
・ステッピング戦略(Stepping Strategy)
があります。   

自ら動いた時、また外的な力で動かされた時に、安定性限界の中に、身体質量中心(COM)を安定させる感覚運動戦略

Horak,2006

この中で、どの戦略が良いとか悪いとかではないです。
課題や環境、文脈によって戦略を変更できる、修飾できることで、
目的動作が達成される事が最も良いと考えます。

まとめ

・姿勢制御とは、様々な姿勢や運動時に「定位」と「安定性」および「運動性」を組織化すること。

・効率的な運動のためには姿勢制御が必要。

・選択的な動きや強さを要求する前に、正しい方向づけが必要。

・セラピストは対象者が能動的に動く、その場面を提供する必要がある。

今回は姿勢制御の考え方をまとめてみました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

今後も地道に勉強を続け、リハビリテーションに必要な情報を発信していきたいと思います。

参考文献

・Bernstein, N. (1967). The coordination and regulation of movement. London: Pergamon Press.

・Horak FB, et al:Postural orientation and equilibrium: what do we need to know about neural control of balance to prevent falls?

・児玉謙太郎他:身体運動研究における“Synergy”概念とその射程